
記事:小野孝太郎(ライティング・ゼミ日曜コース)
「走ることが好きですか?」と尋ねられて「ハイ」と答える人がどれだけいるだろうか。私は好きではなかった。子どもの頃から足は遅くはないが速くもなく、運動会の徒競走では一番になれずいつも敗北感を味わっていた。それなりのトレーニングをすれば速くなれるという知識もなかったので、自分には才能がないのだと思いこんでいた。それに加えて小中学校の頃にあった持久走。適切な走り方を教えてくれる先生がいたわけでもなく、ただ根性でゴールまで走らされるのは拷問でしかなかった。持久走の苦しみがトラウマになって走るのが嫌いな人は日本中に大勢いるのではないだろうか。
そんな私だったが38歳の時にフルマラソンを完走した。人生で最高の経験の一つだった。
走るのが嫌いだった私がなぜフルマラソンを走ったのか? やってみて何が良かったのか? 良かったら是非読んでみて欲しい。もしかしたらあなたも走ってみようかな? と思えるようになるかもしれない。あなたの人生が大きく好転するかもしれない。私はそうだった。すでに走ったことがある人ならば「うんうん、そうだよね!」と思ってさらに走るのが好きになるかもしれない。
ちなみに「笹川スポーツ財団」が2年に一回「ジョギングランニング人口」という調査結果を公表しておりネットで見ることができる。それによると2018年の時点で年に一回でもジョギングをしたことがある人は人口の9.3%だそうだ。だからこれを読んでいる人の大半はマラソンを自分がすることに現時点では興味がないということを前提に書こうと思う。
私はマラソンを走ろうと思ってトレーニングを始めたのではなかった。37歳の終わりの頃に会社の先輩にエアロビクスのクラスに誘われたのがきっかけだ。エアロビクスには興味がなかった。でも先輩に敬意を表して一度出てから断ろうと思った。ところが出てみたら思いの他楽しかった。その日から毎日クラスを受けたのだ。エアロビクスをはじめて2ヶ月後には気がつけばベルトの穴2つ分ほどウェストが引き締まっていた。ジーンズなどは全てブカブカになってしまった。
エアロビクスのプロのインストラクターが教えてくれたことで分かった、当たり前のようで、とても重要なことがある。「苦しくなる前にペースを落として良い」ということだ。子どもの頃から先生や周りの大人に「最後まで全力でがんばりなさい」と言われて育ったので、運動では苦しい思いをしなければならないと思い込まされていた。本当はそんなことはなかったのだ。自分が楽しめるペースですれば良いのだ。その時の自分にとって適度なペースで運動すれば運動神経なんかなくても長時間運動できるということだ。そもそも我々は生まれた時から今まである意味ずっと適度な運動をしているではないか。
人は持久力がないのではない。自分のその時の能力以上に負荷をかけてしてしまうから疲れてしまうのだ。マラソンの練習をするのであれば、まずは歩くことからで良い。慣れてきたらゆっくり走ってみる。息が苦しくないペースでゆっくりだ。苦しくなったらペースを下げる。なんなら歩いて良いのだ。そんな練習でも続けていれば持久力は確実に上がっていく。
それが分かってから私は走ることを楽しめるようになった。エアロビクスのクラスに出てから4か月後にはハーフマラソンを完走し、その3か月後にはフルマラソンを完走した。
100mを12秒で走るのは大半の大人には不可能なスピードだろう。私にももちろん到底無理だ。でも100mを42秒かけてゆっくり走るのなら比較的楽にできるはずだ。
それを一度に421回やればフルマラソンとなり、そのペースでも約4時間56分で完走できる。421回が今は無理そうだったらまずは50回で良い。それですでに5km。立派な長距離だ。とにかく、気持ち良いペースで長く走る練習をする。徐々により長い時間走れるように練習すれば良いのだ。誰か仲間とおしゃべりしながら走れば時間はあっという間に過ぎる。私は一人で練習する時、好きな音楽やオーディオブックを聞きながら走っている。何も聞かずにただ呼吸に意識を向けて瞑想的に走る時もある。
走ってみて良かったことが沢山ある。
何を食べても以前よりおいしく感じるようになった。
汗を沢山かき、新陳代謝が活発になるので肌がきれいになった。
なんとなく体中がキレイになり血液がサラサラになっている感覚がある。
風邪をほぼひかなくなった。
走ることを趣味にする仲間が沢山できた。
子どもといくら遊んでも疲れなくなった。
そして最も良かったこと。それは、長時間走りながら自分自身と対話することを通じて生きる意味を深く考え、本当にやりたいことをする人生に大転換することができたことだ。
良かったら気持ち良いペースでゆっくり走ってみませんか? 苦しくなったらいつ歩いて良いし立ち止まっても良いのです。半年くらい先のマラソン大会に申し込んでしまうのもおすすめです。走りながらご自身と向き合うことで、自分の心の奥底に秘められていた何か新しい世界が見えてくるかもしれません。
≪終わり≫
文章力アップのお薦め本

藤𠮷 豊 (著), 小川 真理子 (著)