告白前に振られた高校生男子の恋物語

記事:小野孝太郎(ライティング・ゼミ日曜コース)

「話しがあるのだけど、いい?」
彼女にそう言われて僕は心臓が飛び出すのではないかと思うほどドキドキした。
しかしそれは一瞬にして絶望に変わったのだ。

「小野くんが私のことを好きだって聞いたの」
「でも、私はそういうつもりはないから」

頭が真っ白になった。聞き間違いであって欲しかった。

僕は大好きな彼女に、告白すらしていないのに振られてしまったのだ。

その日、家に帰るまで何も覚えていない。放課後は初めて部活をサボって帰宅し、思い切り泣いた。わざわざサザンオールスターズの「いとしのエリー」をかけたのだけは覚えている。一人で泣くには寂しすぎたのだと思う。

彼女を初めて見たのは、その一年前、高校一年の三学期だ。
バレーボール部の親友が「7組に可愛い子がいっぱいいるから見に行こう!」と僕に声をかけてくれたのだ。

僕達は後ろのドアからそっと中に入った。教室には40人ほどの生徒がいたはずだ。だが僕の視線は一瞬で教卓のところにいた彼女に釘付けになった。一目惚れだった。

二年生になり奇跡が起こった。同じクラスになったのだ。彼女と毎日同じ教室にいられる。同じ空気を吸える。あの微笑みを毎日見ることができるのだ。

僕が通っていた高校は公立の進学校だった。しかし僕は部活に熱中し勉強をまるでしていなかったので成績は学年でほぼビリだった。一番得意な数学が10段階の5だ。他の科目はそれ以下という惨憺たる成績だった。担任の先生には「君はこのままではどこの大学にも行けないよ」と言われていた。大学に興味がなかったので気にもかけなかった。当時の僕にとって大事だったのは彼女と部活。この2つだけだったのだ。

二学期になってすぐ、夢のような幸運に恵まれた。
彼女と席が隣になったのだ。

同じ教室にいるだけでも幸せな毎日だったのに、その日から彼女がいつも隣にいてくれるのだ。ほんの数十センチしか離れていない。高校生男子にとって大好きな彼女がそれだけ近くにいるだけで一日中大興奮だ。

僕の人生の大きな転機はそれからすぐにやってきた。
数学の時間に彼女が僕に質問をしてきたのだ。
「これってどういうことか分かる?」

分かるわけがない。10段階で5だ。学年ビリだ。彼女は実は大変な音楽家だったのだが勉強もトップレベルにできた子だ。彼女に分からないことを僕が分かるはずがない。

その日から僕の行動は一変した。
空いている時間は全て数学の予習に使ったのだ。
「彼女に何を聞かれても絶対に答えられる自分になる」
そう固く誓った。

そんな毎日をすごしていたら、思わぬ結果がついてきた。
二学期の中間テスト。僕たちの数学の先生は上位3人の点数だけを黒板に書き出すのだが、いつも誰なのか分からない。本人たちが名乗らないからだ。
ところが今回は大騒ぎだった。なんと僕の点数が3番目にあるではないか!

「わー! あれ、俺だ! 俺!」
クラスのみんなも驚きの様子だ。
隣の彼女も
「すごーい!」「おめでとう!」
と僕が一目惚れしたあの笑顔で褒めてくれた。

そしてその瞬間、次の目標が決まった。
「次は絶対に1番になる」
「1番になるためには、満点だ。満点を取れるように勉強する」

期末テストで予定どおり満点を取った。
満点を取ることが目的だったのではない。1番になって彼女にもっと褒めてもらうことが目的だったのだ。だから徹底的にやり切ることができたのだと思う。

そんな幸せ絶頂の毎日をすごしていた三学期、冒頭で語った悪夢が訪れたのだ。

「私はそういうつもりはないから」

信じられなかった。あれだけ笑顔で毎日一緒にいてくれた彼女。少しは特別に想ってくれていると願っていた。
それから絶望的な日々を過ごした。教室では誰とも話さず、学校が終わると部活も休んで家に帰った。

しばらくして、あまりに落ち込んでいる僕を見かねて彼女が声をかけてくれた。なんと言われたか覚えていない。時が経ち、僕もある程度気持ちが落ち着いてきていた。

彼女がそういうつもりがないことは、もう受け容れるしかないと思った。
彼女の気持ちを僕はコントロールできない。
でも、僕は僕の気持ちを選ぶことができるのだ。
僕は彼女のことが今でも大好きだ。それで充分ではないか。

ある日、彼女のお父さんが慶應義塾大学卒だということを知った。そこで僕は慶應に現役で合格することに決めた。目標を紙に書いていつも見えるところに貼った。

当時数学以外の科目は酷い成績だった。しかし私立の理科系だけに絞れば英語、物理、化学だけを猛勉強すれば良いわけだ。数学で学校一番になれたのだから他の科目も「できるまでやればできる」と自分を信じることができた。全て彼女のおかげだ。

高校3年の二学期、バレーボールの最後の大会で負けて僕たち3年生は引退した。
部活を引退し下校時刻は彼女と同じになった。最寄りのバス停まで歩いて10分ほどの道中だ。しかし彼女も僕も別の友だちと共に帰っていた。

ある日、たまたま2人ともいつもの友だちがおらず、僕は彼女と2人でバス停まで歩くことになった。大好きな彼女と2人で歩ける、夢のような時間だった。

さらに、夢はそこだけで終わらず、信じられないことが彼女の口から飛び出してきたのだ。

「これからも毎日一緒に帰ってもいい?」

「え? なにこれ? 夢? 現実?!」
本当だ。今、彼女は確かにそう言ったのだ!!!

それから卒業まで毎日彼女と僕は2人でバス停まで歩いた。

慶應義塾大学には目標通り現役で合格した。
慶應に入りたいから勉強したのではない。
大好きな彼女にあの愛しい笑顔で褒めて欲しかったから、最後までやり抜くことができたのだ。

一目惚れしたあの日からずっと大好きだった彼女。
僕の心に火をつけてくれた彼女。
自分の気持ちに正直に全力で生きようと思わせてくれて、ありがとう。

≪終わり≫

※こちらの記事は天狼院書店のホームページにも掲載されました。
http://tenro-in.com/mediagp/182829

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