コーチングをする目的は、人それぞれであって良いと思うのですが、私は目的の一つは一言で言えば、クライアントの「自己実現」への貢献だと考えています。冒頭に紹介した本の著者のピョートル・グジバチ氏は自己実現に向けた3つのステップとして以下の3つをあげられています。
自己認識 自己開示 自己表現
つまり自分はどんな人物なのかを認識し、そんな自分の考えを開示し、そしてあるがままの自分を何らかの形で表現する。誰かに決められた何かではなく、自分が心から在りたい姿、内から湧き出てくる何かをこの世界で表現するのです。
※当ブログの別の記事では自己理解という言葉を使ってきましたが、私は自己理解も自己認識も同じ意味として捉えています。今日は自己認識という言葉を遣います。
では自己認識を深めるにはどうしたら良いか。大きく分けて2つあると思います。
①自分と向き合う
②他者と向き合う
今日はまず、自分と向き合うことについて書きます。
自分と向き合うとは具体的にどういうことをイメージしますか? 私は自分の考えていること、感じていることを俯瞰してみることであると捉えています。心の中で「今自分は何を考えているのだろう。何を感じているのだろう。」など考えても良いですし、日記のように考えていることを言語化して書いてみても良い。
逆に自分と向き合っていない状態とは何かと言えば、思考や感情に振り回されて無意識に反応している状態です。あるいは意識をしていたとしてもネガティブな感情を抑えきれず、エゴが前面に出てきて後から悔やむような反応をしてしまっている状態です。
大事なことは、日々の生活の中でほぼ無意識に行動している状態から一旦抜け出して、自分をどこか離れたところから俯瞰しているイメージを持ち、今自分は何を考え、何を感じているのか、客観視することです。
自分と向き合う最もお薦めな3つの方法
ではより具体的にどうしたら良いか。私自身数多くの自己認識の方法に取り組んできました。その自分の経験と、関わったクライアントの経験を通じて誰にでも効果的な3つの方法を以下にご紹介します。どれも自分一人でもできますので、良かったら是非やってみてください。
その3つとは
①モーニングページ
②NVC
③ライフチャート
です。それぞれ以下に詳しく説明します。
①モーニングページ
これは以下の本で紹介されています。
モーニングページのやり方は簡単です。朝起きたらすぐに、ノートなど(私はiPadとApple Pencilを使っています)に考えていることや感じていることをただひたすら書き出します。それだけです。その際にとても大事なことは考えたことに一切評価を下さずに、浮かんだことを全て言語化して書き出すのです。あるがままの自分が何を考えているのか、言語化する。それによって自分の思考を俯瞰し、そんな思考をしているあるがままの自分を認めてあげるのです。そんな自分を認めている存在は、エゴとは離れた大いなる存在です。仮にネガティブなことを考えたとしてもその考えをそのまま言葉にして書いてあげてください。
②NVCのフレームワークによる内省
こちらは以下の本で紹介されています。自分自身と向き合うにも、他者と向き合うにも大変有効な考え方です。NVCとはNonViolent Communication の略。つまり、非暴力的なコミュニケーションということです。自分と向き合うのになぜコミュニケーション?と思うかもしれませんが、コミュニケーションは自分自身とのコミュニケーションと、他者とのコミュニケーションがある。自分を俯瞰している何か(これが本当の自分)と、俯瞰する対象になっている自我(エゴ)とのコミュニケーションです。
こちらのブログでも書きましたが、改めて目的と手順を説明します。
NVCの目的
人は生きている間ずっと何らかの出来事と遭遇します。それに対して様々な感情が沸き起こり、その感情が引き金となって反応や行動をします。このプロセスを俯瞰し、ある感情が沸き起こった背景にある価値観やニーズは何かを理解する。本当はどんな出来事に遭遇したいのか、自分はどうしたいのか、相手がいるなら相手にどうして欲しいのかを考える。このNVCのフレームワークでコミュニケーションをすることで攻撃的にならずに自分とも他者ともコミュニケーションをすることができます。
NVCの手順
OFNRのフレームワークで考えます。OFNRとは以下の単語の頭文字です。
O: Observation (観察)
F: Feeling(感情)
N: Needs(価値観、ニーズ)
R: Request(要求)
NVCが有効なのは特に不快な感情と向き合うときです。自分と向き合うときも他者と向き合うときも問題になるのは不快な感情に振り回されてしまっているときではないでしょうか。NVCはその向き合いかたとコミュニケーションの仕方の型を教えてくれます。
具体的な例をあげながらNVCの手順を説明します。
例えば私は「歩きスマホ」をしている人が近寄ってくるのを見ると、不快な気持ちになることがあります。その時は以下のように考えるのです。
Observation(観察)
スマホを見ながら歩いている人がいる。その人は目線をスマホに向けたまま私に近寄ってきている。
ここで大事なのは、観察に感情はいれないということです。事実を淡々と書くのです。
Feeling(感情)
何か胸のどこかが少し締め付けられるような、嫌な気持ちになっている。ちょっとした怒りとか、残念な気持ち。どんな感情か言葉にできないようでしたら、「感情 言葉」などで検索すると、様々な感情を表す言葉の一覧などありますし、NVCの本にもありますので、参考にしてみてください。特に子どもは感情表現を言葉でできないので、泣いたり、暴れたりという結果につながることもあります。「感情 カード」などでも、感情表現を絵と言葉で表したカードなどあるので使うと良いかもしれません。
Needs(価値観、ニーズ)
不快な感情が沸き起こったときには、その背景に「満たされないニーズ」あるいは「侵された価値観」が必ずあります。それが何かを考え、言語化します。例えば、歩きスマホのケースの場合は私が大切にしている以下のような価値観が侵されている。
・周りの人に親切にするべきである。
・街中を歩くときでもいつでも、周りの人の安全に配慮するべきである。
私は程度の大小があれ、このような価値観を大切にしていて、それを元に行動しているのだと思います。
この時点で、「なるほど、私はこういう価値観を大事にしていて、目の前の人はそれを守ってくれていないから不快な感情になったんだ。」と自己認識することができます。
以上が不快な感情を起点に自分の感情やその背景にある価値観やニーズに気がつく手順です。
さらに、自分が満たしたいニーズや大切にしている価値観に気がついたら、以下のことを考えてみてください。
・私はこれからも、このニーズを満たしたいのだろうか
・私はこれからは、この価値観をどれくらい大切に生きていきたいだろうか
これらの問いに対する答えは自分で決めれば良いのです。これからもそのニーズを満たすことが自分の幸福に繋がるのであれば、大切にすれば良いし、これからもその価値観を大切にしたければすれば良いのです。そしてそんな自分を認めてあげる。これも自己認識の一つです。
ときにはもう必要のないニーズや価値観に囚われていることがあるかもしれません。だから自問自答してみるのです。
さらに、以下の問いもしてみます。
・私が持っているこのニーズは世界中の人が同じように持っているニーズだろうか?
・私が大切にしているこの価値観は、世界中の人が同じように大切にしているだろうか?
これらの問いと向き合った時、大抵のニーズや価値観は普遍的なものではなく、自分がたまたまこれまでの人生で培ってきた価値観であり、その程度は人それぞれ違うということに気がつくはずです。例えば
「約束の時間は守るべきである」
という価値観を大切にしている人は世界中の人がその人と同じレベルでその価値観を大切にしているかを俯瞰してみるのです。このように俯瞰したとき、自分の価値観は絶対的なものではなく、みんな違う価値観を持ち、みんなそれぞれのベストを尽くして生きていることに気がついていくと私は思います。
OFNRのR(Request) ですが、これはしてもしなくても構いません。
例えば、約束の時間にいつも遅れる友人がいるとします。そんな時、Requestまで伝えたいときは以下のように伝えるのです。
O(Observation)
(あなた)今日約束の時間に5分遅れて来たね。
(相手)うん。(ごめんね。)
F(Feeling)
私は間不安な気持ちになったんだ。
–> これは「私」が感じたことを言っているだけで、相手に評価を下してないので、大抵の人であれば、「そうなんだね」と受け止められるはず。こういう伝え方を”I message”と言います。もっと丁寧に伝えるとしたら以下のようにします。
「それで感じたこと言っても良い?」
と許可を求めてから自分が感じたことを伝えるのです。もしこれにNoと言われたら、その人との信頼関係は、この出来事以前の別のところで壊れているはずです。
N(Needs)
なぜそうなったかというと、何かあったのかもしれないとか(あなたを大切に想う気持ち。あなたの安全を願うニーズ)、忘れてるのかもしれない(私との約束を大切にしてほしいというニーズ)と思ったからだと思う。
このように、なぜそう思ったのかを伝えます。
R(Request)
「だから、次からは遅れるときはできれば連絡をして欲しい。テキストなどをチェックして返信してくれたら嬉しい。」
例えば 以上のように伝えます。これがNVCの型です。伝わったでしょうか。是非、不快な感情になったときにこのフレームワークで考えてみてください。これを日々の生活で繰り返すことで自己認識は確実に深めていくことができます。私の場合ですが、NVCを実践することで、不快な感情が沸き起こるイベントを自己認識を深めるチャンス、あるいは成長のチャンスと捉えられるようになりました。
③ライフチャート
自分と向き合うにあたり、3つ目のお薦めはライフチャートを書くことです。例えば以下の”FIND YOUR WHY”で推奨されています。
今日とりあげた3つの自分との向き合い方のうち最初の2つは基本的に現在の自分と向き合いますが、ライフチャートを書くということは過去に起こった事実とその時の感情を振り返るということです。「ライフチャート」で検索するといろいろなライフチャートが出てくるのでイメージができると思います。要は自分の年表なのですが、特に大切なポイントは感情がポジティブにもネガティブにも大きく振れたイベントを思い出せる限り取り上げます。横軸を時間軸、縦軸を感情の状態とし、上に行けばいくほどポジティブな感情で、下にいけばいくほどネガティブな感情です。
過去を振り返り、もっともポジティブな感情になれたイベントトップ3は何か?その時どのような感情だったのか。なにが満たされることでそのように感じたのか。これからもまた味わいたいかなど振り返ります。
逆にもっともネガティブな感情トップ3も振り返る。その時満たされなかったニーズや価値観は何か。後悔していることでもあるかもしれない。その時どのような感情だったのかを振り返るのです。そしてそのネガティブな経験から学んだギフトは何かを振り返ります。もしそのイベントを現在ギフトと捉えていないとしたら、今も引きずっている何かであり、ヴィクティム(被害者)であることを選んで今も生きている可能性が高いです。もしそのような消化しきれていない過去のネガティブな経験があるとしたら、まずはそれを認識することが大切です。これについてはこのテーマ(過去のネガティブな経験の捉え方)だけで大きなテーマになるので別の機会に書きます。
以上、今日は自己認識を深めるというテーマで、自分と向き合う方法のおすすめ3つ、
①モーニングページ
②NVC
③ライフチャート
を紹介しました。いかがでしたか。良かったら是非試してみてください。
コーチング入門・まとめ
①コーチング入門(1) コーチングとは
②コーチング入門(2) 対人関係でもっとも大切な心構え
③コーチング入門(3) 相手の話を聞く①
④コーチング入門(4) 相手の話を聞く②
⑤コーチング入門(5) 自己認識を深める①
⑥コーチング入門(6) コーチングの進め方の基本