コーチングでもっとも大切な能力は何かと言われれば迷わず「傾聴力」あるいはよりシンプルに「聞く力」と私であれば答えます。聞く力は私は終わりのない旅だと思っています。だから今回のこのブログで全部を網羅するのは無理だと思うし、私自身「本当の全体像」を描くのは不可能だと思っています。できることは今私が認識できている世界観という限られた条件下で説明すること、自分の世界観を広げ、深め続ける努力を続けることだと思います。
大げさに映るかもしれませんが、聞く力はその人の在り方そのもの、言い換えるとその人の精神の発達段階が大きく関わってくると私は考えています。そうした発達段階をとても分かりやすい切り口から説明しているのが以下の「インテグラル理論」です。
私は「誰かにとって良い聞き手」になるためには最低でもその「誰か」の発達段階と同じかそれ以上の発達段階になければならないと捉えています。その「誰か」が「本当に良く聞いてもらえた」と感じるためには聞き手の発達段階が重要だということです。それは発達段階が下の人を見下すという意味ではありません。人は誰もが生まれてからこれまでの人生を通じて様々な要因が重なり合いながら精神的な発達を遂げたり、あるいは場合によっては発達を止めているかもしれないという捉え方です。世界中の誰もがいろんな事情があって、みんなその人なりのベストを尽くして生きてきて、今の状態に在るのです。現時点での精神の発達段階は違うとしても、精神の根底では同じであって、上も下もない。スピリチュアルな話しになりますが、みんな「大いなる存在」の一部であり無限の広がりを持っている。でも、「自分」だと思っているこの存在は、この世に生まれてからこれまで生きてきた中で培った様々な価値観のフィルターを介してこの世界を捉えています。精神の発達というのは、この価値観のフィルターの存在に意識を向けて、自分の感情や思考を俯瞰することを通じて達成します。そのために「瞑想」は非常に有効な手段です。精神の発達のための瞑想の仕方を分かりやすく説明しているのが以下の二冊でとてもおすすめです。

チャディー・メン・タン (著), 一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート (著), 柴田裕之 (翻訳)
さて、冒頭に「聞く力は終わりのない旅」だと書きました。答えがない、終わりがない旅においてとても大事なのは、自分を成長させてくれる良質な問いを持ち続けることです。問いを持つことで思考や行動が促されるからです。例えば「聞く力」においては私自身以下のような問いを持ち続けています。
・誰かにとって良い聞き手になるとはどういうことだろう?
・それはどのように計ることができるだろう?
・良い聞き手にはどのような特徴があるだろう?
・その特徴を身につけるために自分には何ができるだろう?
・なぜ自分は良い聞き手になりたいのだろう?
・良い聞き手になれたらどのような良いことがあるだろう?
・聞く力をさらに伸ばすために今日できることは何だろう?
例えばイチロー選手が子どもの頃から毎日野球の練習をし続けられたのは、小学生の頃の作文にも書かれていたように「絶対にMLBで活躍する」という想いがあり、その結果「どうしたらMLBで活躍できるような選手になれるだろう?」とか「今日するべきことは何だろう?」という問いと常に向き合っていたはずなのです。
「聞く力」というのは何か本を読んだり、誰かにテクニックを教えてもらったらすぐにつくものではない。もし「聞く力」をつけたいと思ったら、自分が日々持つ問いを例えば上にあげたような問いに変えるのです。もちろん本を読んだり誰かに教えてもらうことも有効です。要するに一朝一夕につく力ではなく、日々の積み重ねが重要な能力だということです。
4年前に小学校の教師をしている時、同じNPO (Teach For Japan)を通じて先生になった方で、プロコーチでもある同志の方に「人の話を聞くときは心を白紙にして聞く」というアドバイスをいただきました。これも実はすごい深いアドバイスです。そもそも「心を白紙にする」とはどういうことなのかは実は今も分からない。当時の自分を振り返ると間違いなく真っ白ではなく、かなり濃いグレーで話しを聞いていたと思います。今はかなり白に近づけたと思うのですが、決して純白ではないと思うのです。
いろいろ書いてきましたが、今回のブログで書きたい一番のポイントは「聞く力」というのは一朝一夕につくものではなく、精神の発達を軸に日々の積み重ねでつけていくものであるということ。だから、どのような「問い」を持ち続けるかが大事だということです。「聞く力」に限らず、この人生をかけて何か実現したいことや、身につけたい能力などがあるとしたら、「良質な問い」を持ち続けることが重要です。
例えば私は「心が強くて優しいリーダーを沢山育てる」と「全ての人の心に火をつける」というミッションで生きています。だから、
・そのために今できるベストなことは何だろう?
・そもそもなぜ自分はそれを実現したいのだろう?
などの問いを持っています。また短・中期的にはコーチングを通じて生み出す価値を高めたい。だから
・コーチとして成長するために今日できることは何だろう?
・私はコーチングを通じて何を実現したいのだろう?
・コーチングを続けることは自分や関わる人の将来にどのような意味があるだろう?
そんな問いを持ち続ける毎日です。
さて、今日のテーマの「聞く力」に戻ります。コーチとしての「聞く力」を伸ばす方向性としてとても参考になるのが国際コーチング連盟が定めるコーチのコアコンピテンシーです。「傾聴」に関して求められる能力が記述されています。
C 効果的なコミュニケーション
05. 積極的傾聴
✔クライアントが願望として語っている意味を理解し、その自己表現をサポートするために、クライアントが語っていること及び語っていないことに、完全に集中できる能力
① クライアント本人とクライアントの持っている筋書に注意を向けて聴くのであって、コーチがクライアントのために用意した筋書に注意を向けて聴くのではない
② クライアントの関心事、目的、価値観、そして、何が可能で何が可能でないのかについての思い込みを聴き取る
③ 言葉、声のトーン、ボディランゲージを聴き分ける
④ クライアントが述べていることを明解にし、理解を確実にするために、要約、言い換え、繰り返し、おうむ返し等を行う
⑤ 感情、物の見方、関心、信念、示唆などを、クライアントが表現することを勇気づけ、受けとめ、探索し、強化する
⑥ クライアントの考えや示唆を束ね積み上げていく
⑦ 「要するに何が言いたいのか」ということや、クライアントのコミュニケーションの本質を理解し、長い説明をさせるよりは、クライアント自身が要点にたどり着くのを助けている
⑧ 決めつけやこだわりを捨て、クライアントが次のステップに進むために発散することを促したり、状況を「クリア」したりすることができるようにする
これらをただ読むだけでなく、一つ一つを深く吟味し、
・これの意味することは何か?
・この能力をどのように計ることができるのか。
・この能力を伸ばすために今日できることは何か。
などの問いを持ち続けて、日々を積み重ねることが重要だと私は思います。
以下、「聞く力」をつけるための心構えとして参考になる本はたくさんありますが、当ブログでも過去に紹介した本をいくつか改めて紹介します。
器を大きくするのではなく「器を空にする」という目からウロコの考え方が書かれていました。

スティーブン・R・コヴィー (著), フランクリン・コヴィー・ジャパン (翻訳)
聞く力においては特に、一つ目の習慣と五つ目の習慣が重要
すぐに読める本ですが、「在り方」の理想像を教えてもらえる素晴らしい本です。聞く力以前に、どのような「在り方」であるかが「聞く力」においてもとても重要です。
精神の発達のかなり高い、深いレベルまで垣間見させてもらえる本。何度も読んでこの本の考え方を無意識に実行できている自分を俯瞰できるようになりたい。そんな本です。
最後に冒頭に紹介したこちらの本は5000人以上の人にインタビューをされてきた著者の方が書かれた聞き方の本。基本的な考え方、スキルを学ぶのにとても分かりやすい本でおすすめです。
コーチング入門・まとめ
①コーチング入門(1) コーチングとは
②コーチング入門(2) 対人関係でもっとも大切な心構え
③コーチング入門(3) 相手の話を聞く①
④コーチング入門(4) 相手の話を聞く②
⑤コーチング入門(5) 自己認識を深める①